第28回 水素エネルギー研究会
(月刊『コロンブス』2026年2号掲載)
日本一の製造業集積地・愛知県が
中部圏における水素の社会実装をリード!!
2025年4月、愛知県が県経済産業局内に「水素社会実装推進課」と「次世代モビリティ産業課」を立ち上げた。これを機に、以前から推進してきた県内や中部圏における水素社会の確立に向けた動きを加速させている。水素社会実装推進課課長の高見秀ひでほ氏に、製造業集積地ならではの水素政策の現状と展望を聞いた。
中部圏の水素ビジネスの加速と裾野拡大を目指す
愛知県は製造品出荷額日本一(全国シェア15.5㌫)を誇る産業都市であり、港湾臨海部には発電所や製鉄所、製油所、化学工場などが集積し、内陸部にはトヨタ自動車を中心に輸送機械や電気機械、生産用機械などの工場が集積している(図表1)。
水素社会実装推進課の高見秀課長によれば、そのなかで水素製造とアンモニア貯蔵に関する以下2件の大型プロジェクトが立ち上がり、進展しているという。
ひとつは豊田通商㈱、㈱ユーラスエナジーホールディングス、岩谷産業㈱の3社が陸上風力発電で得た電力によって愛知製鋼㈱知多工場(東海市)敷地内の水電解装置で低炭素水素を製造するというもので、この水素は愛知製鋼の特殊鋼製造などに活用するという。
もうひとつは、㈱JERAが国ルイジアナ州で製造された低炭素アンモニアを輸入し、そのアンモニアを同社碧南火力発電所(碧南市)で混焼燃料として使い、さらに一部を㈱豊田自動織機、AGC㈱、日本碍子㈱、㈱アイシン福井の工業炉の燃料などに利用するというプロジェクトだ。これらふたつのプロジェクトは、昨年9月と12月に国の水素社会推進法に基づく価格差支援制度(※2)にも認定されている。
中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議ではこうしたプロジェクトだけでなく、「低炭素水素認証制度」にも力を入れている。小規模な低炭素水素の製造・活用の取り組みをバックアップする制度で、現在、認定されている12件のなかには中小企業の取り組みもある。たとえば、自動車の整備・売買などを手掛ける㈲位田モータースは国と県、政府系金融機関などから整備費などの支援を得て2024年1月に「名古屋城グリーン水素ステーション」を開設、再エネ由来のグリーン電力を使用して敷地内で水の電気分解を行い、グリーン水素の製造・供給に取り組んでいる。「こうした事例をモデルケースとして、中部圏における中小企業の水素関連事業の裾野拡大をはかっていきたい」と高見課長は話す。
FC商用車の導入拡大やステーション整備にも注力
商用車(トラックやバスなど)のFCV(燃料電池自動車)の導入拡大や大型水素ステーションの整備促進も「日本一の貨物車両数」を誇る愛知県にとって最重要課題のひとつ。愛知県も経済産業省の「燃料電池商用車の導入促進に関する重点地域」(※3)に選定されており、FC商用車導入目標は全国2万8000台のうち、4分の1の7000台を目指すという(図表5)。
この目標達成に向け、県内企業や市町村のFC商用車導入費や燃料費のほか、水素ステーションの整備・運用費の支援も行っている(※4)。
高見課長によれば、現在のところ県内には33カ所の水素ステーション(トラックやバスなどの商用車に対応できるのは24カ所)があり、全国でもトップ。今後、これをさらに増やしていくにあたって「県内全域を調査し、大型トラックなどが頻繁に利用するインターチェンジの近くや、すでに一定数のFC商用車が登録されている市町村など、需要の高まりが想定されるエリアを中心として2030年までに74カ所にまで整備数を増やす計画をすすめている」という。
水素社会実装推進課と次世代モビリティ産業課が発足
このほかにも、愛知県では日本一の貨物量を取り扱う名古屋港のコンテナターミナルにおいて荷役機械やトラックなどの水素燃料化をはかる「名古屋港湾水素化」、水素工業炉を県技術センターに整備し、工業炉の脱炭素化を促進する「カーボンニュートラル工業炉導入」など、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。まさに日本一の製造業集積地にふさわしい全方位的な水素戦略だ。
そして2025年4月、県はこうした取り組みをさらに加速させるために組織再編を行った。以前は経済産業局 産業科学技術課内に設けられていた水素社会実装推進室を「水素社会実装推進課」とし、あらたに自動車や航空機などの競争力強化を目指す「次世代モビリティ産業課」も設置したのだ。「将来的にはこの2課で連携し、水素を燃料とするドローンや空飛ぶクルマの開発、FCVによる自動運転の実証など次世代に向けたさまざまな挑戦をしていきたい」と高見課長は意気込んでいる。
※1 低炭素水素……製造や輸送、利用にともなうCO₂ 排出が少ない水素のこと。
※2 価格差支援制度……水素社会推進法に基づき、割高な低炭素水素や低炭素アンモニアなどの価格と既存の化石燃料価格との差額を、国が長期(15年間)にわたり支援する制度。
※3 燃料電池商用車の導入促進に関する重点地域……経済産業省が2025年5月に東北/福島県、関東/東京都・神奈川県、中部/愛知県、近畿/兵庫県、九州/福岡県を選定。今後、これらの地方公共団体内の水素ステーションでは国がディーゼルと水素の燃料費の差額に対して約700円/㌔㌘(差額の4分の3程度に相当)を追加補填するなどの支援を拡充していくという。
※4 愛知県のFC商用車や水素ステーションに関する支援策について、補助率などの詳細は県HP(https://www.pref.aichi.jp/site/suiso-fcv/)へ