カーボンニュートラルニュース vol.35

(2025.06.30)


入交昭一郎のカーボンニュートラル提言
大型のFCトラックに水素サウナ、
FCアシスト自転車に水素コンロなど、
水素エネルギーの商品群が生まれてきている

コロンブス2506
水素エネルギー研究会最高顧問水素エネルギー研究会最高顧問、元本田技研工業㈱副社長 入交昭一郎氏
 あいかわらず水素の生産コストは高止まりがつづくが、日本国内でも水素エネルギーの社会実装に向けた国主導のプロジェクトが徐々に前進している。たとえば経済産業省は東京や福島などの6都県をFC(燃料電池)商用車を集中的に導入する重点地区に指定し、FCトラックやバス向けの水素燃料費の補助をはじめる。補助額は水素1㌔㌘あたり700円とのこと、これは水素とディーゼル燃料の価格差の4分の3程度にあたり、かなり大きなサポートだと思う。大型FCトラックはフル充塡状態で600㌔㍍程度走行でき充塡時間は15分ほどと、電気自動車(EV)と比べて使い勝手がよく1回の充填あたりの走行距離も長いため、長距離輸送での普及が期待されている。今後、こうした補助でコストパフォーマンスがよくなれば、物流業界における水素エネルギー利用が一気に広がっていくのではないか。
 企業の取り組みについても、昨今では社会実装を見据えた実のあるものが多くなっている。6月11日、サントリーが記者会見で発表した「サントリーグリーン水素ビジョン」はそのひとつだ。サントリーグリーン水素は、国内工場が水源としている地域の清浄な地下水を使い「やまなしモデルP2Gシステム」(※)によって製造するという。今後、同社では山梨県と協業してエネルギーの地産地消モデルを検証し、東京都内への水素供給も目指すほか、サントリーグリーン水素の製造から物流・販売までを網羅したバリューチェーンも構築するとしている。
 そのほか、生活のさまざまな場面で水素を利用する取り組みが広がっていることにも注目したい。月刊『コロンブス』でも今年2月号で燃料電池搭載の電動マイクロモビリティ「チャットカート」(Hundredths㈱)を取り上げたが、トヨタ紡績㈱では昨夏から福井県敦賀市と連携してFCアシスト自転車の実証を行っている。UCC上島珈琲が水素を燃料として豆を焙煎し、コーヒーの量産に乗り出したり、㈱H2&DX社会研究所がプロパンガスでなく水素を燃焼させて食材を調理する「水素コンロ」の製造・販売や「水素調理レストラン」経営に取り組んだり、といったことも話題になっている。ユニークなところでは、フィンランドのサウナ&スパブランドのハルビアとトヨタ自動車㈱が共同開発したという「水素サウナ」も気になるところだ。国や大手企業の大規模プロジェクトだけでなく、こうした小さくてもより一般の人たちが身近に感じられる取り組みも水素の社会実装に向けた機運醸成にはきわめて重要。今後、当研究会でも積極的に取り上げていきたい。

※ やまなしモデルP2Gシステム……再生可能エネルギー由来の電力による水電解によってグリーン水素を製造し、水素を燃料として利用することで脱炭素化を実現する技 術で、山梨県、東レ、東京電力ホールディングスなどが開発をすすめている。