特別編 水素エネルギー研究会
(月刊『コロンブス』2025年4月号「足配便PRESS輪島」掲載)
究極の次世代エネルギー「水素」
能登の里山に水素ステーションや
水素利活用システムが誕生‼

水素エネルギー研究会の事務局を務める東方通信社の輪島支局(石川県輪島市)が、石川県金沢市・輪島市の水素ステーションや水素利活用システムを取材。研究会記事の特別編としてそのレポート記事を紹介したい。
石川県初、輪島と金沢に
水素ステーション誕生!!
2011年、「能登の里山里海」が佐渡とともに日本で初めて世界農業遺産に認定された。その認定10年を機に月刊『コロンブス』(21年1月号)で能登に伝わる農耕儀礼や伝統農漁法として観光名所「千枚田」の田越し灌漑の畦切り法や「海女漁」などを紹介した。しかし、昨年の地震によってそれら能登の暮らしぶりを伝える貴重な資源は、壊滅的な打撃を受けてしまった。
振り返ると、石川県はこの農業遺産認定10 周年を機に水素エネルギーで里山を活性化させようというプロジェクトを立ち上げていた。23年にはじまった「いしかわゼロカーボンドライブプロジェクト」(一般社団法人能登スマート・ドライブ・プロジェクト協議会)だ。このプロジェクトは、水素エネルギーを利用したCO₂排出ゼロの究極のエコカー「燃料電池自動車(FCV)」で県内全域を周遊できるようにしようというもので、石川県輪島市洲衛「のと里山空港」と金沢市鞍月の2カ所に23年4月26日に水素ステーションが開所した。ステーション内では純水を電気分解して水素を製造し圧縮、蓄圧、充填するオンサイト方式を採用しているという。電気分解に必要なエネルギーは北陸電力が供給する再エネ電気を使い、「のと里山空港」にある水素ステーションの現場の管理運営は輪島市の㈱輪島丸善が行っている。これまでの成果はどうだったのだろうか。
ステーションスタッフの増田健太郎さん(38歳)に話を聞いた。「利用は空港ターミナルビルの公用車と空港内レンタカーの1台、輪島市外の会社2社の社長車いずれもトヨタの『MIRAI』です」とのこと。また「現在は国の補助で満タン5.6㌕で6776円、燃料電池自動車は600万円ほどで購入できますが、車種が大型乗用車しかないことや1日に充填できる台数が2台と少ないことから普及はこれからです」と話す。しかし「トラックやバスやフォークリフトなどに利用される例が増えてきているのは心強い、将来、水素を一括して大きな工場でつくり、ステーションに輸送するオフサイト方式にすれば安定供給できるステーションが増えて普及するのでは」と話していた。


中山間地域「春蘭の里」の
廃校に水素実証システム導入
もうひとつ水素エネルギーの取り組みを紹介しよう。舞台は以前、月刊『コロンブス』(18年10月号)で取り上げた「春蘭の里」だ。石川県能登町宮地・鮭尾地区、街灯もなく、夜になると漆黒の闇に包まれる山里。しかし1996年、「若者が戻ってくる農村の再生」を掲げ、限界集落を何とかしようと多田喜一郎さん(77歳)を中心とする住民による「春蘭の里実行委員会」が結成された。その後、多田さんの熱意あふれる活動に賛同する人が増え50軒もの農家民宿群ができた。やがて「里山の暮らしをまるごと体験できる」と個人客や修学旅行客が年間約8000人も訪れるほどの人気スポットとなったのだ。


18年10月号の取材では、多田さんたちが地元で廃校になった旧宮地小学校を「宮地交流宿泊所 こぶし」という地域交流の場にリニューアルしたことを紹介した。この「こぶし」に水素エネルギー施設ができたという。前出の能登スマート・ドライブ・プロジェクト協議会による「能登半島『春蘭の里』ゼロカーボンビレッジ実証システム設計・整備工事」(明治電機工業)で、23年11月に完成した。


7年ぶりに訪れた旧宮地小学校は地震による外壁工事のため全面がシートで覆われ、そのレトロな姿は隠れてしまっていた。しかし、校舎のすぐ横に太陽光パネルと小さな古民家風の建物があり、なんとそのなかに水素を製造するシステムが収まっていた。「春蘭の里」の美しい里山景観と調和し、ここで地域のゼロカーボンを目指す地産地消の実証システムが稼働しているのだ。多田さんに話を聞いた。「ここでは太陽光パネルと水車の発電による再生可能エネルギーを活用して水素を製造・貯蔵し、宿泊施設全体の電気をまかなっている」とのこと。この施設は昨年1月の地震のときの避難所で大勢の人が集まっていたが、4日間ほど停電しただけで水素電力が役立ったという。ここ春蘭の里に水素システムができると全国の自治体などから視察が相つぎ「春蘭の里は究極の地域づくりのモデル、ウチの村や町にも」といった声をもらったそうだ。多田さんもこうした声に後押しされ「今はこぶしだけだが、ゆくゆくは地域全戸に水素による電気が行き渡るようにしたい」と夢を描く。